胃腸の主な病気
胃腸の主な病気
※当院の疾患対象年齢は16歳以上です
強い酸性の胃液(胃酸)が胃の内容物とともに食道に逆流し、食道の粘膜に炎症が生じる病気です。胃酸が増えすぎてしまったり、胃酸の逆流を防ぐ機能がうまく働かなかったりすることで起こります。胃酸がのどまで上がってきて酸っぱいと感じるようになったり、胸やけやのどがヒリヒリしたりして不快感が続きます。夜間や就寝時に増悪する傾向があります。喫煙、飲酒などの生活習慣や加齢、肥満、姿勢、食道裂孔ヘルニアなどが原因となります。
食物を分解する働きをもつ胃酸や消化酵素が、胃や十二指腸の壁を深く傷つけてしまうことによって起こります。胃粘膜がピロリ菌に感染することが主な原因の一つとして知られていますが、鎮痛薬であるNSAIDSなどの長期服用やストレスなどでも発症します。40代以降の方に多くみられますが、ピロリ菌に感染していると若い方でも発症することがあります。症状としてはみぞおちや背中の痛み、お腹の張り、吐き気、胸やけなどが生じます。
潰瘍が深くなると出血することがあり、吐血や血便がみられます。自覚症状が乏しいまま潰瘍が進行していくと、突然胃穿孔や十二指腸穿孔(胃や十二指腸に穴があくこと)からの急性腹膜炎を生じ、緊急手術による治療を余儀なくされる場合もあります。
ピロリ菌というのは正式にはヘリコバクター・ピロリのことで、胃の中に生息する細菌です。1983年にオーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルにより発見されました。ヘリコバクター・ピロリの感染の多くは幼少期に口から入り、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみならず、胃がんや MALTリンパ腫などの発生に繋がることが報告されています。そのほかにも特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血など胃外性疾患の原因となることが明らかとなっています。細菌の中でヒト悪性腫瘍の原因となり得ることが明らかになっている病原体のひとつで、この発見により2005年にウォレンとマーシャルの両氏はノーベル賞を獲得しています。
ピロリ菌に対する除菌治療は先ず平成12年11月より胃潰瘍、十二指腸潰瘍に対して認められ(1次除菌)、平成19年8月より1次除菌不成功例に対する2次除菌治療が認められ、さらに平成22年6月からは胃MALT(マルト)リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者さんにも保険適応が拡大されました。
平成25年2月22日よりヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適応となりました。ピロリ菌感染者の全てが胃癌になるわけではありませんが、ピロリ菌の除菌治療は胃癌発症の回避につながると考えられ、将来的な胃癌患者数の減少に期待が持たれています。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療を保険診療で行うためには1.胃内視鏡検査により胃炎の所見を確認することと、2.除菌前の感染診断を(1)尿素呼気試験、(2)血中抗体測定法、(3)尿中抗体測定法、(4)便中抗原測定法、(5)迅速ウレアーゼ試験、(6)鏡検法、(7)培養法(8)胃内視鏡廃液を用いたPCR検査の何れかで行い、陽性であることが必要となります。
ピロリ菌感染を確認するだけではなく、胃癌は除菌治療では治らないため除菌治療前に胃内視鏡によって胃癌の有無を確認することが必要です。
また、たとえピロリ菌除菌が成功したとしても胃癌発症のリスクがゼロになるわけではありませんので、定期的な内視鏡検査をお勧めいたします。
除菌治療については胃薬、抗菌薬2種類を服用し、その後4週間以降で除菌の効果判定を行います。効果判定にも先に述べた尿素呼気試験や血中抗体測定法がありますが、当院では尿素呼気試験での判定を行います。二次除菌、三次除菌(自費)にも対応しておりますので、ピロリ菌陽性と判定されたかたは受診されて除菌治療を受けられることをおすすめします。
胃炎は、様々な原因で胃の粘膜に炎症を起こす病気で、急激に発症します。激しい腹痛や胃の不快感、吐き気などの症状を生じ、重症の場合は吐血や血便がみられます。広範囲なびらんを伴う病変を、急性胃粘膜病変と呼び、過度の飲酒や刺激の強い食べ物の摂取、ストレス、ピロリ菌感染、アレルギー、鎮痛薬・ステロイド・抗菌薬などの薬剤が原因と考えられています。現在、内視鏡検査が普及しており、粘膜の炎症状態を詳しく観察できるようになっています。
ウイルス性胃腸炎は、主にウイルスによって引き起こされる感染症で、胃や腸の炎症を引き起こします。季節性があり、冬季に大流行することがあります。一般的に、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因として挙げられます。これらのウイルスは、感染した人の飛沫や吐物、糞便、汚染された水や食品を介して広まります。感染した家族の吐物や糞便の処理などから家庭内感染も多くみられます。
ウイルス性胃腸炎の症状としては、腹痛や腹部の不快感・下痢・嘔吐・発熱・悪寒や全身のだるさ、などがあります。これらの症状は、感染後数日以内に発症し、通常は数日から1週間で自然に改善します。ただし、症状が重篤である場合や、高齢者や免疫が低下している人、乳幼児などの特定の人々では、脱水やその他の合併症のリスクが高くなります。
予防策としては、手洗いや食品の十分な加熱、感染者との接触を避けることが重要です。治療は飲水困難の場合には点滴を行い、整腸剤の処方で腸内細菌叢の環境を整えることが重要です。
お腹の痛みや体の不調に伴って下痢や便秘などが数か月以上続き、検査をしても異常が見られない場合に疑われるのが過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)です。明確な原因は不明ですが、ストレスなど心理的要因が関連していると考えられています。腸内細菌、食物アレルギー、感染性腸炎も原因として挙げられています。
マロリー・ワイス症候群は、食道と胃の境目の表面が急激な腹圧や嘔吐によって縦に裂け、出血してしまう疾患です。この裂傷は通常、粘膜下層まで生じ、粘膜下の動脈から出血します。胸痛や腹痛を伴うことは一般的ではありません。
マロリー・ワイス症候群や特発性食道破裂は、繰り返しの腹圧によって食道と胃の境目の壁が何度も勢いよく広がり、粘膜面が縦方向に裂けることで起こります。アルコールを飲んだ後に嘔吐を繰り返すことが一般的な原因とされていますが、しゃっくり、くしゃみ、咳、喘息発作、腹部打撲、排便や出産時のいきみなどが原因となる場合もあります。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜を中心にびらんや潰瘍を形成します。症状としては下痢や血便、腹痛、しぶり腹(便意があっても便が出ない、出ても少量)、重症化すると発熱、体重減少、貧血などがみられることもあります。発症に男女差はなく、20歳代の比較的若年層から高齢者まで幅広い年代で発症します。
潰瘍性大腸炎発症から7~8年で大腸がんを併発するようなケースもあります。難病に指定されており明確な原因は分かっていませんが、各種薬物療法により適切な治療により症状を抑制できれば、健康な人とほとんど変わらない日常生活を送ることが可能です。
遺伝的要素も考えられていますが、明確な原因は不明です。全身のあらゆる消化管に、浮腫や潰瘍を形成し症状を引き起こします。腹痛と下痢が高頻度にみられますが、発熱、栄養障害、血便、肛門病変(痔ろうなど)が現れることもあります。難病に指定されていますが、適切な治療で症状を抑制できれば健康な人と変わらない日常生活を送ることが可能です。
便秘症は、大腸や直腸の働きの異常による「機能性便秘」、便の通過が物理的に妨げられる「器質性便秘」、全身の病気の症状として起こる「症候性便秘」、薬の副作用で起こる「薬剤性便秘」に分けられます。便秘症の原因は幅広く、原因が異なれば治療法も違います。女性は男性に比して腹直筋の力が少ないため便秘になりやすい傾向があります。
なかには大腸がんなどが閉塞の起点となって便秘を引き起こすこともあり、注意が必要です。強い腹痛や吐き気、発熱などを伴う場合や便に血が混ざる場合は自己療法で対処せずに、すぐに受診してください。
ウイルス、細菌、寄生虫などの腸管感染により発症します。梅雨の影響などで高温多湿となる夏場は細菌が原因となるものが多く、冬場にはノロウイルスをはじめとするウイルス性のものが多くみられます。細菌性はサルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O‐157)などがあります。ウイルス性はノロウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルスなどがあります。下痢や腹痛が主な症状ですが、下血・血便や発熱、悪心・嘔吐、食欲不振などを伴うこともあります。
大腸粘膜に隆起(りゅうき)する組織を大腸ポリープと呼び、大きく腫瘍性と非腫瘍性に分けられます。非腫瘍性ポリープの多くは過形成性ポリープといわれるものですが、そのほかにも炎症性ポリープや過誤腫性ポリープなどがあります。腫瘍性ポリープの多くは良性の腺腫ですが、悪性の大腸がんもこれに含まれます。治療の対象となるのは腫瘍性ポリープで、非腫瘍性ポリープの多くは治療を要しません。
排便のときに生じる肛門の痛みや出血は、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)の可能性があります。坐薬や軟膏による治療、手術では痔核硬化療法や結紮切除術などがあります。便に血が混じる場合、大腸がんや直腸がんなど他の病気が潜んでいることもありますので、お早めの受診をお勧めします。
食道がんは飲酒や喫煙が主な危険因子と考えられています。近年ではお酒を飲んだときに顔が紅くなる人(フラッシャー)が長期的に飲酒を継続することもリスクファクターと判明してきました。早期では無症状ですが、進行すると食べ物を飲み込むときに胸がしみる感じ、つかえる感じ、胸痛が生じます。早期に発見できれば内視鏡治療や放射線治療など低侵襲な治療が選択可能となります。飲酒や喫煙をされる方やバレット食道を指摘された方は、定期的に胃内視鏡検査を受けることをお勧めします。
欧米と比較し日本で多い傾向にあります。一般的な胃がんは胃炎や萎縮を起こしている胃の粘膜から発生すると考えられています。原因の多くをヘリコバクター・ピロリ菌感染が占めますが、喫煙や塩分の過剰摂取、栄養バランスの偏った食事なども要因と考えられています。
早期の胃がんや特殊なタイプの胃がんを発見するためには、内視鏡により、丁寧に観察する必要があります。現代は内視鏡診断・治療の技術が進歩しており、がんの早期発見ができれば内視鏡的治療が、また手術であっても体に侵襲の少ない腹腔鏡下手術やロボット支援下す術も可能になっています。定期的に内視鏡検査を行うことが大切です。
平均寿命の高齢化に加え、食生活の欧米化など様々な要因もあり、大腸がんによる死亡者数は増加傾向にあります。大腸がん発見にいたる症状は必ずしも下血や便秘だけではなく、下痢と便秘を繰り返すなどの便通異常、便が細くなる(便柱の狭小化)や、無症状のこともあります。症状の自覚がなく進行してしまうと、ある日突然に腹痛や嘔吐などが出現して腸閉塞を発症する場合があります。その原因として大腸がんが診断されることもしばしば遭遇します。
しかしながら早期発見ができた場合には内視鏡治療などの低侵襲な治療で根治できる可能性があります。大腸ポリープ切除術を行うことで、大腸がんによる死亡を予防できることも報告されています。下痢や便秘などの便通異常、血便がみられる方や便潜血反応陽性の際は、定期的な大腸内視鏡検査をお勧めします。
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